An elephant never forgetsーー「ゾウは決して忘れない」という英語のことわざをご存知ですか？このことわざはゾウの記憶力の良さを表したことわざですが、実は世界にはこのことわざが本当であることを実体験として感じた人びとがいます。これは、ある赤ちゃんゾウを救った人間たちとゾウの群れの物語です。

ある日、1頭の赤ちゃんゾウが誤って深いぬかるみに落ち、身動きが取れなくなってしまいました。状況は深刻で、赤ちゃんゾウは命の危機に晒されてしまいます。ゾウは非常に仲間意識の強い動物で、赤ちゃんゾウを見捨てることなく2日間も側で見守っていました。最終的には人間たちが、あらゆる手を尽くしてこの赤ちゃんゾウを助け出します。

しかし、赤ちゃんゾウの救出はそんなに簡単なものではありませんでした。

事件が起きたのはインド南部にあるウルランタンニ川周辺。この地域は世界でも珍しく、野生のゾウがのびのびと暮らせる場所として知られています。しかし言い換えれば、ゾウたちが自由にのびのびと暮らせるということは、常に厳しい自然に晒され、運命が自然に託されているとも言えるのです。ある日、とあるゾウの群れが川を渡ろうとしていたところ、赤ちゃんゾウが誤ってぬかるみに落ちてしまいました。赤ちゃんゾウは抜け出そうと必死にもがきますが、もがけばもがくほど身体は深みにはまっていきます。しかしこれは、赤ちゃんゾウに起きた悲劇の始まりに過ぎなかったのです。

かわいそうなことに、赤ちゃんゾウの身体はどんどん深みに沈んでいきます。仲間意識が強く、仲間のことを家族同然として大切にするゾウは、赤ちゃんゾウの周りにとどまりました。なんとか助けることができないかと、赤ちゃんゾウを見守り続けたのです。

しかし穴に水が溜まり始め、事態はさらに深刻になります。

突然水が入り始め赤ちゃんゾウはパニックに。このまま水が増え続け水位が上がれば、命の危険があることを本能的に察していたからです。もちろんゾウの仲間たちもそのことを知っていました。群れの大人のゾウたちは、体重の重い自分が穴に入れば、自分の命すら危ないことを知っているのか、助けることができなかったのです。

そしてさらに追い討ちをかける出来事が。

今度は太陽が昇り気温が上昇し、赤ちゃんゾウの穴の中に日差しが降り注ぎました。ゾウは一般的に暑さに強いと言われていますが、穴から出ようと必死にもがいた赤ちゃんゾウには、暑さに耐えられる体力が残っていませんでした。ヒリヒリと皮膚を刺すような暑さは、赤ちゃんゾウの体力を容赦なく奪っていきます。

しばらくすると、赤ちゃんゾウの意識が朦朧としてきました。

赤ちゃんゾウを見守っていたゾウの群れは、ただ見ているだけの状況に耐えられなくなったのか、鼻を高々と上げて大きな叫び声をあげました。するとその声が周囲にいた人間に届き、助けに駆けつけてもらうことに成功したのです。

赤ちゃんゾウの体力の限界はもうすぐ。一刻も早い救助が求められています。

何とかして赤ちゃんゾウを助けたいと声を上げたゾウの群れ。人間たちも急いで鳴き声のする方に集まりました。現場を見た人間たちは驚きます。赤ちゃんゾウの置かれた状況は、非常に深刻なものだったからです。赤ちゃんゾウを見た瞬間、長時間穴にはまっていて、体力を消耗した状態であることが分かりました。

しかし、一体どうやって赤ちゃんゾウを助けたらよいのでしょうか？

実は現場に駆けつけた人たちが真っ先に心配したのは、自分たちの身の危険でした。彼らが足を踏み入れたのは野生動物が生息するエリアだったからです。安易に足を踏み入れては、野生動物に攻撃される可能性もあります。彼らは身の安全のために、大勢でこの救出活動を行うことが大切だと考えました。

さらに、これからは時間との戦いです。

救助隊はまずシャベルなどを使用して赤ちゃんゾウの救出を試みましたが、作業は難航しました。赤ちゃんゾウには、自ら穴から這い出る体力が残っていなかったからです。時間は刻々と過ぎていきます。救助隊は手作業ではなく別の方法での救出を余儀なくされました。そこで救助隊は赤ちゃんゾウの身体を穴から出すために掘削機の手配を始めました。

しかし、掘削機が現場に着くまでには時間がかかります。現場には焦りばかりが広がっていきました。

救助隊は掘削機の到着を「まだか、まだか」と待ちました。やっとのことで掘削機が到着すると、すぐに人びとが事前に決めていた持ち場につくことに。タイムリミットは迫っています。一刻も早く作業をしなければいけません。少しでも失敗してしまえば、赤ちゃんゾウが命を落としてしまう可能性だってあります。もちろん赤ちゃんゾウだけでなく、周りのゾウの群れも懸念要素の一つでした。群れが赤ちゃんゾウを諦めて、どこかに行ってしまう可能性があったからです。

その時！なんと赤ちゃんゾウの母親が穴の近くに近づいてきました。

母親ゾウは自らが穴の中へ助けに行けないことを知りながら、何か人間たちのためにできることがないかと近づいてきたのでしょう。母親ゾウは穴の中で苦しむ我が子を、いつまでもじっと見つめていました。しかし時間は無常に過ぎていきます。

もはや、赤ちゃんゾウの生死を問う段階まで事態は進んでいました。

しかし、ここで奇跡が起こります。穴の外に母親がいることに気がついた赤ちゃんゾウが、最後の力を振り絞って穴から出ようと再びもがき始めたのです。救助隊、掘削機、そして母親ゾウに囲まれた赤ちゃんゾウは、動き回って何とか穴から出ようとします。母親ゾウの姿が見えたことで、赤ちゃんゾウに再び活力が戻ってきたのでしょう。もう残っていないと思われた力が、どこからか湧き上がってきているようです。

そしてついに事態は大きく進展します！

信じられないことに、赤ちゃんゾウは2日間という長い長い時間を経て無事に救出されました。赤ちゃんゾウは母親ゾウと掘削機の力を借りて何とか穴の外へ。救助隊の一人に肩に担がれて仲間の群れへと戻っていきました。状況は困難を極めましたが、なんとか救助隊は仲間の群れが赤ちゃんゾウを見捨てる前に救出に成功したのです。

そしてこの救出劇には、誰も予想しなかったラストが待っていました。

赤ちゃんゾウが助け出されるまでその場を動かなかった仲間の群れですが、食べ物を求めて旅路を再開しなければいけません。この世界で生きていくためには、食べ物を求めて次の場所を目指さなければいけないのです。いよいよ人間たちとの別れの時がやってきて、赤ちゃんゾウが戻ってくると、群れは再び動き出しました。

救助隊たちは、赤ちゃんゾウと仲間の群れが地平線の彼方へと消えていく様子を、感慨深げに眺めています。救助隊の人々の心には、安堵の気持ちと、ほんの少し寂しい気持ちがいっぱいに広がっていました。

するとそこで、救助隊の人々も驚く感動の出来事が起こります！

きっと、救助隊の誰もこの事態を予想していなかったでしょう。ゾウの群れがどんどん遠ざかって行ったと思ったら、なんと突然ゾウたちが人間たちの方を向いて、鼻を高々とかかげ、力強く鳴き始めたのです。それはまるで、赤ちゃんゾウを助けてもらったゾウたちが、人間たちに最後のお礼を伝えているよう。トランペットのファンファーレを思い起こさせるようなゾウたちの鳴き声は、川辺だけでなく地域全体に響き渡りました。

ゾウは仲間意識が高いだけでなく、知能も高く人間のような感情を持っていると考えられています。そのことを踏まえると、ゾウの群れがこのような感動的な行いをしたことにも納得ができますね。赤ちゃんゾウを助けた人々は、きっとこの先もゾウたちは、このことを忘れることがないだろうと確信しています。今回はインド南部で起きたゾウと人間の素敵な物語をご紹介しました。